生物学

最初に見たものが‟母親”に 動物の「刷り込み」研究でノーベル賞

ローレンツ,コンラート・ツァハリアス・(1903~1989年、生物学・医学・動物行動学、オーストリア)

 ある日、魔法使いが、卵の殻を割って出ようとしているハイイロガンのヒナたちに言った。

「この世で最初に目にしたものが、お前たちの母親じゃ」

 ところが何と、ヒナたちが最初に見たのは、ひげを生やした一人の男だった。男は卵に顔を近づけながら、ヒナたちの様子を熱心に観察していた。そのためにヒナたちは、その男を「母親」と思い込み、彼がどこへ行くにも、後からついて歩くようになった。

 ──これは「魔法使い」以外は、本当の話だ。「男」というのはオーストリアの動物行動学者、コンラート・ローレンツ。動物の行動に関するユニークな現象の発見や研究で、他のオランダとオーストリアの動物行動学の研究者とともに、1973年のノーベル医学生理学賞を受賞した。

 発見したのが「刷り込み」と呼ばれる現象だ。動物は生まれながらにして自分の親や仲間を知っているのではなく、最初に出会った「適当な大きさの動く物体」(それは必ずしも動物とは限らない。例えオモチャでも)を、親や仲間として「自分の意識の中に刷り込んでしまうのだ」という。

 「刷り込み」が可能なのは出生直後の短い期間で、いったん刷り込まれると効果は一生消えないといわれる。

 例えば、アヒルの群の中でニワトリのヒナが生まれると、そのヒナはアヒルを親と思い込み、自分をアヒルの子供だと信じてしまう。恋する時期になっても、そのニワトリは本来の仲間のニワトリには見向きもせず、アヒルの彼女(あるいは彼)を追いかけ回すようになるという。

 そういえば「自分を人間と思っている」ような飼い犬やネコがいるとか、いないとか。それも刷り込み現象によるのかも知れない。しかし、人間の場合は複雑で、刷り込みによって親を認識するのか、あるいは、その後の経験(学習)によって認識するのか、結論ははっきりしていないらしい。