ウイリアム・ハーベイ William Harvey(1578年4月1日~1657年6月3日、解剖学・医学・生理学、英国)
科学には「常識をつくる科学」と「常識をくつがえす科学」がある。
医学界で重要な「血液循環説」
英国ケンブリッジ大学に6年間通い、その後イタリヤのパドヴァ大学で医学博士号を取得したウイリアム・ハーベイは、ロンドンの開業医となり国王の侍医も務めた。そして発見したのが、心臓がポンプの役目を果たし、血液が体内を循環しているという「血液循環説」だ。
ハーベイが1628年出版の自著『動物の心臓と血液との運動に関する解剖学的実験』で発表した医学界でも重要な歴史的な学説で、日本では江戸時代初期のころだ。
それまでのアリストテレス学派の解釈
それまでのアリストテレス学派を中心とした西洋医学では、
「腸で消化・吸収された食物は、肝臓に入って血液となる。その血液が心臓の右心室に入って、肺に行く。血液中の老廃物は、肺から気管を通って、鼻穴から煤(すす)として、外に排出される。きれいになった血液は右心室に戻り、壁の小さな穴を通って左心室に入り、血管で全身に送られる」……といったことが、もっともらしく信じられていた。
動物の心臓を解剖し実験で確認
上記のどこが間違いかは、字数が長くなるのでここでの説明は割愛するが、それはともかくも、ハーベイはそれまでの常識の間違い(あるいは正しさ)を、多くの動物の心臓を解剖して観察し、さらに実験することで確かめたのだ。
全血液量を心臓の血液量と拍動から計算
例えば、心臓に入る血液の量を死体で調べ、拍動の回数などから計算して、実に大量の血液が心臓から送り出されていることを突き止めた。
これは「食べ物から血液がつくられる」という従来の医学での考え方では、とても足りない血液量だ。ハーベイは「心臓から血管へ、血管から心臓へと、血液は絶えず循環している」と結論づけた。
血液の「大循環」と「小循環」
さらに、自分の腕をしばることで、静脈の血液が体の末端から心臓方向に流れていることを確かめたほか、血液の流れにおける心臓と全身との間での「大循環」、心臓と肺との「小循環」の仕組みについても明らかにするなど、それまでの医学界の常識を一変させたのだ。
「すべての動物は卵から生まれる」
ハーベイはほかに、シカを使って胎児の成長を観察するなど、発生学の研究も行った。本人は、ほ乳類の卵子までを見ることはなかったが「(人間を含む)すべての動物は卵から生まれる」と最初に唱えた科学者でもあった。